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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)180号 判決

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

二 取消事由に対する判断

1 前示本願考案の要旨に成立に争いのない甲第三号証(本願考案の願書並びに添附の明細書及び図面)及び第八号証(昭和六一年一月二四日付手続補正書)を総合すると、本願考案は、一方の軸端に形成した球体と他方の軸端に設けた単一のシートからなる球面シートから構成され、球体を球面シート内に回転可能に拘束するようにした自在継手の抜け止め装置に関する考案であつて、従来の自在継手にあつては、球面シートの内部に形成された環状溝の対向する溝端面の間をテーパ状に形成し、テーパ斜面と球体との間を抜け止めリングの線径よりも大きな間隔を有するように構成されていたため、軸部に抜け力が作用した状態で軸部が繰り返し揺動すると、抜け止めリングが徐々に斜面に沿つて後退しながら押し拡げられ、球面シートと球体が離脱する危険があつたことから(別紙図面(一)第1図参照)、本願考案は、そうした欠点を解消することを目的として、本願発明の要旨のとおりの構成を採用したものであること、右構成、特に、環状溝断面を、抜け止めリングと協働して球体の通過を阻止する小径部と、同じく通過を許容する大径部と、これら小径部と大径部との間を連結するところの、球体との間に形成される最小間隔が球体の球面シートへの挿入着座時には抜け止めリングの線径以上で、かつ右挿入着座後球体が抜け止めリングと当接するまで抜け方向に移動したときには抜け止めリングの線径以下となるテーパ斜面からなる係合段部とで形成するという構成を採用したことにより、球体の球面シートへの挿入時には、抜け止めリングは球体に押されて大径部の溝端面に当接し、次第に拡開され、球体の最大部を通過した時点において、その内径方向への収縮力によつて大径部から小径部へと移動するようになるが、その際、係合段部がテーパー斜面になつていることから、抜け止めリングは右係合段部に妨げられることなく移動することができ、また、球体の球面シートへの挿入後においては、球体側軸部に抜け力と繰り返し揺動荷重が生じた場合においても、球体は、一方においては、小径部の環状溝端面に当接して抜け方向への移動を阻止されている抜け止めリングにより同方向への離脱が防止されるとともに、他方において、そのような状態における係合段部と球体との間隔は、予め設定されたとおり、抜け止めリングの線径以下となるから、抜け止めリングの大径部側への移動も確実に阻止され、球面シートと球体の離脱を防止することができるという作用効果を奏し得たものと認められる。

2 他方、引用例に本件審決認定のとおりの事項が記載されていることは原告の認めるところであり、右記載事項によれば、引用例記載のものは自在継手の抜け止め装置であつて、その一方の継手端部に形成された継手頭部を保持する連結体は、ソケツト、シート及びキヤツプからなり、かつ、キヤツプに形成された環状溝断面を、環状溝は割リングと協働して継手頭部の通過を阻止する小径部と、同じく通過を許容する大径部とで形成し、割リングを保持しつつ、継手頭部の連結体への挿入着座を容易ならしめるとともに、右挿入着座後は割リングを小径部に保持し、揺動に際しては、小径部、割リングと相まつて継手頭部が連結体から離脱するのを防止する機能を奏するバネとワツシヤを具備するものと認められる。なお、本件審決は、前記2の引用例の記載事項の認定において、引用例記載のものの連結体の環状溝は、右小径部と大径部と「継手頭部の曲面との間に形成される最小間隔が該頭部の連結体への挿入着座時には割リングの線径以上で、かつ、該頭部が割リングと当接するまで抜け方向に移動したときには、割リングの線径以下となる小径部と大径部を隔てる段部とから形成されているものと認められる」と、あたかも「小径部と大径部を隔てる段部」が、それ自体独自の機能を奏するかの如き認定をしているが、右に「小径部と大径部を隔てる段部」とは、引用例記載のものの環状溝における小径部と大径部の境の垂直な段差部分を指称するものにすぎず、本願考案における「係合段部」のように継手頭部に繰り返し揺動が生じた場合においても、割リングの大径部側への移動を確実に阻止して、継手頭部の連結体からの離脱を防止する機能を奏する部位と解することができないばかりか、右に「継手頭部の曲面との間に形成される最小間隔が該頭部の連結体への挿入着座時には割リングの線径以上で」とは、大径部の径が割リングが拡開して継手頭部の連結体への挿入着座を許容する程度に大きいことを、また、同じく、「該頭部が割リングと当接するまで抜け方向に移動したときには、割リングの線径以下となる」とは、小径部の径が割リングと協働して挿入着座した継手頭部の離脱を阻止する程度に小さいことを言い換えたにすぎないものと解されるのであつて、本件審決の右認定部分に特別の意味があるものと解することはできない。

3 そこで、本願考案と引用例記載のものとを対比するに、本願考案の、その断面が小径部、大径部及び両者を連結するテーパ面の係合段部からなる環状溝をその内周面に具備する球面シートも、引用例記載のものの、その断面が小径部、大径部及び両者を隔てる垂直な段部からなる環状溝をキヤツプに形成した連結体も、共に抜け止めリング(割リング)と協働し、その拡開による球面シート(連結体)からの球体(継手頭部)の離脱を防止するという機能ないし作用を奏するものである点において異なるところはないが、前記1において認定したとおり、本願考案の球面シートの内周面に形成された環状溝の係合段部は球体との間に形成される最小間隔が球体の球面シートへの挿入着座時には抜け止めリングの線径以上で、かつ右挿入着座後球体が抜け止めリングと当接するまで抜け方向に移動したときには抜け止めリングの線径以下となるというテーパ斜面からなり、球体に繰り返し揺動が生じた場合においても、抜け止めリングの大径部側への移動を確実に阻止して、球体の球面シートからの離脱を防止する機能を奏するのに対し、前記2において認定したとおり、引用例記載のものの環状溝における小径部と大径部を隔てる段部とは、右小径部と大径部の境の垂直な段差部分であつて、本願考案における環状溝の係合段部とは、テーパ斜面でないという形状の違いに加え、球体(継手頭部)との間に形成される最小間隔が球体(継手頭部)の球面シート(連結体)への挿入着座時には抜け止めリング(割リング)の線径以上で、かつ右挿入着座後球体(継手頭部)が抜け止めリング(割リング)と当接するまで抜け方向に移動したときには抜け止めリング(割リング)の線径以下となるという構成を具備していない点で、その構成を異にするものであると認められるほか、引用例記載のものにおいて、継手頭部に繰り返し揺動が生じた場合に、割リングの大径部側への移動を確実に阻止し、継手頭部の連結体からの離脱を防止するという、本願考案の係合段部と同じ機能を果たすのは、割リングを小径部に保持するバネとワツシヤであつて、本願考案の球面シートと引用例記載のものの連結体の内部構造は右の点において明らかに異なるものであると認められる。そして、引用例を精査するも、引用例に本願考案の球面シートの内部構造、特にその環状溝に相当する具体的構造を示唆する記載は何も認められない。

4 ところで、本件審決は、本願考案の「係合段部」は引用例記載のものの「小径部と大径部を隔てる段部」に相当するとしたうえで、本願考案が「小径部と大径部をテーパ斜面で連結する」という構成を有しているのに対し、引用例記載のものはかかる構成を有さず、本願考案には存在しない「割リングを小径部に保持するバネとワツシヤ」を有しているという両者の相違点について、当業者であれば引用例記載のものに適宜設計変更を加え、本願考案のように構成することは極めて容易に想到し得ることであると判断し、被告は、本願考案の係合段部と引用例記載のものの小径部と大径部を隔てる段部との間に構造上の相違があるとしても、本願考案と引用例記載のものに共通する本質的な機能に対して何ら影響を与えるものではなく、また、両者は共に継手の一方の部材を構成するものであるから、本件審決のこの点についての判断に誤りはない旨主張するところ、前認定説示のとおり、本願考案の球面シートも引用例記載のものの連結体も、共に抜け止めリング(割リング)と協働し、その拡開による球面シート(連結体)からの球体(継手頭部)の離脱を防止するという機能ないし作用を奏するものである点において異なるところはないが、そうした機能を奏するための構成は明白に異なるものであり、しかも、引用例には本願考案の環状溝の係合段部の構成を示唆する記載が何もないのであるから、引用例記載のものから本願考案の前記構成を極めて容易に想到し得ることと解することはできないのであつて、これを容易に想到し得るとする本件審決の右判断は誤りであり、被告の右主張も採用することができない。

5 叙上の事実によれば、本件審決は、本願考案と引用例記載のものとの対比において、本願考案の球面シートの係合段部の有する技術的意義を看過し、当業者であれば、引用例記載のものに適宜設計変更を加え、本願考案の係合段部のように構成することは極めて容易に想到し得るとの誤つた結論を導いたのであつて、違法たるを免れない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の請求は、理由があるものというほかない。よつて、これを認容することとする。

〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。

一方の軸端に形成した球体を、他方の軸端に形成した球面シートに、球面シートの内周に形成した環状溝に嵌挿した抜け止めリングを介して回転可能に保持するようにした自在継手に於いて、前記抜け止めリングを嵌挿した環状溝断面を、該抜け止めリングと協働して球体の通過を阻止する小径部と、同じく通過を許容する大径部と、これら小径部と大径部との間をテーパ斜面で連結し、かつ球体との間に形成される最小間隔が球体の球面シートへの挿入着座時には抜け止めリングの線径以上で、かつ球体が抜け止めリングと当接するまで抜け方向に移動したときには、抜け止めリングの線径以下となる係合段部とから形成した自在継手の抜け止め装置。(別紙図面(一)参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

<省略>

(図面の説明)

第1図は従来の自在継手の断面図、第2図は本願考案の第一実施例の断面図、第3図ないし第5図はそれぞれ第二ないし第四実施例の断面図である。

0……球体6の中心

1……球面シート

1a……球面シート1の内周面

1b……球面シート1内の底部

2……球面シート1の軸部

3……環状溝

4……抜け止めリング

5……球体6の軸部

6……球 体

7a、7b……溝端面

8……斜 面

9……大径部

10、10a、10b、10c……小径部

11、11a……係合段部

A、B……抜け止めリング4の位置

d……抜け止めリング4の線径

L2、L3……球体6と係合段部11との間隔

(以下省略)

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